巻末おまけ②

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* 俺にとって、鹿野敏子という女は、下界に帰って心底会いたいと唯一思える女だった。 あいつがいる下界に必ず帰る。 そんなことを頭の片隅にいつもおきながら、世界の山々を登ってきた。 好きになった理由なんて、未だにはっきりとは分からない。 けど、居心地の良さとあいつが作る飯の旨さだけは知っていた。それだけで十分だと思っていた。 アイツが現れるまでは。 成瀬亮。その存在を知った時、雪崩の予感を感じる時と同じくらい、俺の中で警鐘が鳴った。 高原雅司の時には感じない何かを感じた。 トシと高原雅司との先に、頂上なんてないと思っていたから、あの頃は気にもとめていなかった。 それなのに、アイツのことを話すトシの顔や声を聞いた瞬間に、確信した。 トシが奪われてしまうかもしれないと。 もうこの先、トシが誰かに心を奪われることなんてないだろうとたかをくくっていた。 そんな考えにかまけて、トシと離れて欲望のままに山に登り続けた。 そのツケがまわって来たのかもしれないーーそう感じた。
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