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読み進めていくうちに、涙が何度も静かに頬を伝っていくのを感じた。
喉の奥がしまって苦しくて。感情が溢れだしそうになるのを、すんでのところでどうにか抑えた。
読めば読む程に、切なくて愛しくて涙が止まらなくなる。
あの人の想いを胸に刻みつけていく作業はとても辛いことで。それでも、読むのを止めることは出来なかった。
とめどなく伝わってくるあの人の私への広い愛情を、十年の時を経て、しかももうその本人がこの世にはいないという事実を知った後で知るなんて。
どこまで私は間の悪い不幸な女なんだろう。
「何で……今になってなのよ」
私がもう少し、あの時あの人のことを信じていれば良かったのだろうか。
たらればなんて、今更考えてもどうにもならないことくらい分かっている。分かっているけれど、考えずにはいられない。
やがて、太陽の光が辺りを照らし始めた。
私がノートに書かれている言葉を読んでいる間、成瀬君はずっと黙って傍にいてくれた。
文字は、ページを捲っていくうちに段々と乱れていって、最後の方は何を書いているのか読み取るのが難しかった。
ノートの半分以上書いたところで、文章は終わっていた。
それでも、他にももしかしたらまだ何か書いていないだろうかと、暫く捲り続けた。
すると、最後のページの真ん中部分に、一言だけ何かが書かれているのを見つけた。
それは、みみずがはったように書きなぐられたある言葉。
その言葉を見つけた時、塞き止めていた感情がとうとう溢れ出し、私は嗚咽を漏らした。
「トシ、愛してる……」
そこには確かに、そう書かれていた。
いつかあの人と富士山に登った時のやり取りが頭を過る。
ーートシ、愛してる。この先もずっと。この景色に誓うよ。
ーー私もこの景色に誓うわ。もしあなたがこの先私のことを忘れることがあったとしても、私はあなたのことを変わらずずっと愛してる。
ーートシのことは一生忘れないよ。忘れる訳ないだろ?
「ごめん、なさい……」
ノートに顔を押し付けて、私は泣き崩れた。
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