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慌ててトイレに駆け込んだ。訳の分からない吐き気がようやく止まり、しゃがみこんだまま茫然とした。
そんな筈はない。
ふらつきながらベッドへとなだれ込み、横向きにくの字に寝転びながら、置いてあった卓上カレンダーを手にして眺める。
周期の間隔は大分開いていたものの、これまで二回ちゃんとそれらしきものは来ている。だから、年齢によるものかただの生理不順だろうくらいにしか考えていなかった。
身体が落ち着いてから、半信半疑のままドラッグストアーへ向かった。買い物を済ませて帰ってから、買ったものを早速使った。
「陽性……」
買ってきた妊娠検査薬には、二つの青色の線がくっきりと浮かび上がっていた。
まさかと思いながら近所の産婦人科クリニックへ行き、そこで検査してもらうことにした。
「妊娠十五週から十六週くらいといったところですかね。着床出血や身体が月経周期を覚えていて、通常と変わらず生理が来るなんてことはよくあることなんですよ」
「妊娠、ですか……」
エコーの機械をお腹の上で動かしながら、妊娠したことをあっさりと告げる医師の顔と画像を見ながら呟く。
自分のお腹の中に、命が宿っている。
子供の父親は、成瀬君。
命は、私のお腹の中でこうしている間にもどんどん育っていく。
その揺るぎようのない事実を前に、私はただ茫然とするしかなかった。
医師から高齢出産のリスクと堕胎についての説明も受けて、その日は帰途についた。
一週間悩んで考えた挙句、私はどうするかを決めた。
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