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「カノ。お前、何一人で抱え込もうとしてるんだよ」
それから更に三ヶ月後。
私は早産の危険があるからと、総合病院に緊急入院した。
ベッドの上で絶対安静の身の上になっていて、傍には遠藤君が座っていた。
「ごめんね」
そう言って力なく笑う私に、遠藤君が眉間にしわを寄せつつも苦笑混じりに呟く。
「誰にも告げずに一人で産もうとするなんて、お前らしいと言えばお前らしいけどな。誰でも良いから、お前は他人にもっと頼ることを覚えろよ」
「……そうね」
成瀬君には妊娠したことは告げていない。
今頃ニューヨークで仕事漬けの日々を送っていることだろう。
子供の父親ではあるけれど、彼に負担はかけたくなかった。
多分、富士山に登った時に授かった命だと思う。
妊娠が分かった時、これはきっと運命か何かに導かれたものなのだろうと数奇めいたものを感じた。
何故かは分からない。それが母性の成せる技だと言われたらそうなのかもしれない。
けれど、それだけでは片付けられない、うまく説明出来ない何かが、私にお腹の子の命を育むように伝えている気がした。
だから、私は産むという選択肢を選んだ。
こんな自分でも、誰かを守る存在になれるのだろうか。
沢山悩んで、沢山未来を思い描いて。
自分一人で、この子を育てていこうと決めた。
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