ニヒルな王子

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容体も安定したので、一時退院させてもらえることになり、その間に出産する為に必要な会社の手続きその他諸々を済ませることにした。 仕事は病休と産休とを併せて使わせてもらい、休めることになった。 私の年齢で、しかもシングルマザーとして産むことに、会社の人達は最初驚いていた。 けれど、好奇な目で見られるだけかと思いきや、意外なことに周囲の人達が不思議なくらい温かく接してくれた。 私に対するそんな周りの変化を感じながら、自分がお腹の中の子を守るどころか、もしかすると私がお腹の中にいる子に守られているのかもしれないと思った。 「鹿野さん。妊娠しているそうだね、おめでとう」 仕事の引き継ぎや休暇願いなどの手続きを無事に済ませ、会社のロビーを歩いているところへ、松永専務に会った。 「専務、お疲れ様です。ありがとうございます。この度は私事にて会社にご迷惑をおかけします。申し訳ございません」 「いいんだよ、おめでたいことなんだから。鹿野さんは長いこと真面目にうちで働いてくれている。ここらで少し、ゆっくりと休めば良い。まぁ、そうは言ってもこれから大変だろうけどな。頑張って」 「はい。復帰しましたら、またよろしくお願いします」 優しく微笑んで立ち去った松永専務の後ろ姿を見送りながら、色々なことがあったけれど、この会社に勤めていて良かったなと改めて思えた。
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