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その後、暫く実家に戻り穏やかに過ごしていたけれど、再び早産の危険が身に迫り、入院することになった。
医師や助産師から、出産まで絶対安静だと告げられて、私はベッドに寝たきりの状態となった。
誰かが傍にいる時は平静を装っていたけれど、不安がなかった訳ではなかった。
夜眠れない時は、どうしても悪い方向に考えが持っていかれそうになって、その度に不安に押し潰されそうになった。
声が聞きたい。
優しい笑顔が見たい。
大きくて温かいその手に触れたい。
安心するその広い胸に飛び込んで、思いっきり抱きしめてもらいたい
あれだけ離れるまではあの人の顔ばかり浮かんでいたのに、今浮かんでくるのは、成瀬君の柔らかい笑顔だった。
成瀬君の全てに恋していたことに、今更ながらにはっきりと気づく。
「ママはいつも、気づくのが遅いのよね」
膨らんだお腹を優しく擦りながらお腹の中の子に語りかけ、私は小さく笑った。
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