113人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
眠っていたことに気がつくと同時に、お腹が軽くなっていることに気がついた。
私の赤ちゃんはと声に出そうとしたけれど、うまく言葉に出すことが出来なかった。
その後に気づいた。
自分の左手が、誰かの大きくて温かい手に握られていたことに。
その掌の感触に、覚えがあった。
誰が握っているのかを確認しようと顔と手を少しだけ動かした瞬間、ベッド脇に座って俯いていた人物が勢いよく顔を上げた。
時が止まったかと思った。
信じられなくて、自分はまだ夢を見ているのではないかとさえ疑った。
会いたくて、会いたくてたまらなかった。
よく知った優しい眼差し。
その人物の姿を見た瞬間、涙が再び溢れ出した。
自分の目の前にいるその人の瞳も、少し赤く潤んでいる。
その人のそんな顔を見るのは、初めてだった。
「成瀬君……どうして?」
途切れながら、やっとそれだけ言葉を紡ぎ出した。
「遠藤さんが連絡してくれたんです。会社に行って、緊急だからって俺の連絡先聞いてくれて。それで帰ってきました」
そう言って、あれだけ心の中で秘かに会いたいと願っていた成瀬君が、私の手を両手で握った。
「二人とも無事に生きていてくれて、本当に良かった」
成瀬君が眉間にしわを寄せて瞳を閉じながら、額に私の手ごと、自分の両手をあてた。
「良かった。赤ちゃん、無事なのね」
私が安心したように呟くと、成瀬君が顔を俯けたまま頷いた。
「はい。今はNICUに入ってます。早く産まれたから身体は少し小さめですけど、元気な男の子です」
最初のコメントを投稿しよう!