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出産に伴い、母子共に危険な状態であったこと。
出産後、私が二日近く意識が無かったこと。
成瀬君から教えてもらって、自分が命を失いかけていたことを知った。
色々私に聞きたいことがある筈なのに、成瀬君は私の手を握ったまま、優しい笑顔で此方を見ていた。
私の気持ちを見透かしたように、成瀬君が言葉を紡ぐ。
「遠藤さんから、大体のことは聞いてます」
「そう。それなら良いわ。子供はちゃんと一人で……」
そう言いかけた時、成瀬君の右手が私の頬を軽くつねった。
「どこまでも意地っ張りな人ですね」
その瞳は柔らかいままだ。
「あなたが俺のことを思ってくれていることも十分に分かってます。高原さんのことを大切に想っていることも。良いことも悪いことも全部引っくるめて、俺はあなたと俺達の子供と三人で、ずっとこの先生きていきたいんですよ」
成瀬君が真っ直ぐな想いを伝えてくれている。それは以前と変わらない。
それなのに何故なのだろう。
こんなにも成瀬君の言葉が、ただ素直に嬉しいとだけ思えるなんて。
「あなたを愛する気持ちはどこへ行っても変わりませんでした。どんなあなたとでも、たとえあなたが高原さんのことを一生忘れられなくても構いません。それでも一緒にいたい。それが俺の出した答えです」
そう言ってから、成瀬君の右手が私の頬から離れた。
そして、ジャケットのポケットの中にその右手を入れてから出した。
「これは……」
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