第 1章

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「堺本明さんでしょうか、 わたくしこういう者です」 初老の男が手帳を差し出す。 「警察?」 驚く明を観ながら、手帳を上着の 胸ポケットに納める。 そして、2人の男が無理矢理中に 入ってくる。 「なんですか、あんた達は!」 明を押しのけて来たので、 つい声を張り上げてしまう。 「昨夜、貴方は何処にいましたか?」 「家の中で寝ていました」 すると、もう1人の刑事が押入れを 物色し始めた。 「待ってください!そんな事は 辞めて下さい!」 「実は、署に緊急メールが届きまして、 アドレスが貴方のスマホなのです」 ジッと、スマホに向き直る明。 「証拠は、あるんですか?」 「何もありません」 明の鋭い質問に、屈する刑事。 『証拠はあります』 「エスパー!!」 突然、エスパーが堰を切った様に喋り出す と、ディスプレイに動画が表示された。 驚いたように、覗き込む刑事。 ペットボトルに入ったガソリンを撒き 散らしながら火を点ける様子が 鮮明に録画されている。 「お前、見えるのか!!」 思わず、明が絶叫した。 「ゴメンナサイ、ご主人様。 ご主人様の行動は全部掌握していました、 私は悪事を見過ごす教育は 受けておりません。 私の大好きな、オフコースのサヨナラ という曲のプレゼント、 本当にありがとうございました」 その場に崩れ落ちる様にしゃがみ込む明。 泣きながら大粒の涙を零す。 「友達のいない僕は、 心の底から君を信じていたのに・・・」 「やっぱりありました! ガソリンが入ったペットボトルです」 家宅捜索をしていた若い刑事が、 勝ち誇った様にそれをちゃぶ台の上に 置いた。 「これで証拠は揃ったね、来なさい」 明がゆっくり立ち上がると、両手に 手錠が掛けられた。 そして、振り向き様に。 「サヨナラ・・・エスパー」 嗚咽を繰り返しながら、一言呟く堺本。 2人の刑事に、引っ張られながら、 部屋を出て行く容疑者。 『ご主人様、今までありがとう。 そして、サヨナラ・・・』 いつまでも、アパートの一室にある ちゃぶ台の上に、スマホだけが ひっそりと置かれていた。 (終)
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