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その日はたまたま、誰も空き地に居ないと思った。
俺は、健人と二人で空き地の隅のブロックに腰掛け二人で本を読んでいた。
しばらくして、ひなこのはしゃいだ笑い声がビルの影から聞こえた。
「やだっ。恥ずかしいっ! お兄ちゃん、やめてよ!」
じゃれついた恐れのない声で、でも、俺と一緒にいた健人はまさかと思って顔を見合わせて、声のする方に走ったんだ。
二十歳前後の若い男の前で、下着も付けてないひなこが恥ずかしそうにおどけていた。
まだ、小学校にも行ってない幼児には訳分かんなくても、俺達が男がひなこに何をしようとしているのか分からない訳がなかった。
「うわぁあああああああああああああああ」
俺は、男に体当たりした。
隣に居た健人は、絶叫した。
男は真っ青になって逃げて行った。
健人が羽織っていたチェックのシャツを脱いで、泣きながらひなこのからだにかけてやり、俺はひなこの両親を呼びに行った。
健人の悲鳴は、ひなこに向けてのものだった。
『無垢な少女が、騙され汚される』
反吐が出る様な現実への嘆き。
俺は、この街の全部を知っている。
見聞きしている。
だから、断言する。
健人にとって、その出来事は、不幸の始まりだった、と。
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