中野香夜

13/24
前へ
/155ページ
次へ
中野ちゃんのことは一目惚れに近かった。 たいして美人でもなければ、ずば抜けて何かに秀でているわけでもなかったけど、入学当初から一人でいる彼女が気になった。 友達付き合いは苦手なタイプぽい。 そう思ったけど、そうでもなくて、話しかければ全然楽しいし、勝手に目立つから友達は瞬く間に増えていった。笑顔が眩しくて、俺はすぐにそれを自分のものにしたくなった。 「え、私?」 体育委員に選ばれた中野ちゃんの最初の反応はそれだった。目立つ気がない=何もやる気がない、彼女にとってそれは迷惑な話でしかなかった。 「隣の相場くんがやるって言ってるし、席隣同士だから男女で連携取りやすいでしょ」 濱口の言葉に中野ちゃんは絶句。 俺は彼女と同じ仕事ができることに喜びを感じていた。ナイスだ俺、ナイスだ濱口。 「困る……」 ボソッと呟いた中野ちゃんの発言は、心底思っていたみたいだけど、後の祭り。みんな中野ちゃんがやるってことで合致してしまった。 中野ちゃんにとって、何が困ったのか。それは自分が運動神経が良いからだった。ただでさえ目立つのに、それが体育委員なんて言ったら余計目立つ。 しかも、1組のスポーツ科に負けないくらいの運動神経を誇る彼女はいつしか1組の女子の敵と見なされるようになった。 目立つのが嫌なのは、敵が増えるのが嫌とイコールだったのかもしれない。 そういえば、俺が中野ちゃんに絡んでるときに、俺を好いているらしい1組の女子が来て、危うく喧嘩を吹っ掛けられそうになったのを覚えている。 中野ちゃんは何の相手もせず、友達のところに行っちゃったんだけども。 そんな中野ちゃんは、クラスでは人気者だった。うつ病で休んだときも、みんな驚きを隠せなかった。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加