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中野ちゃんのことは一目惚れに近かった。
たいして美人でもなければ、ずば抜けて何かに秀でているわけでもなかったけど、入学当初から一人でいる彼女が気になった。
友達付き合いは苦手なタイプぽい。
そう思ったけど、そうでもなくて、話しかければ全然楽しいし、勝手に目立つから友達は瞬く間に増えていった。笑顔が眩しくて、俺はすぐにそれを自分のものにしたくなった。
「え、私?」
体育委員に選ばれた中野ちゃんの最初の反応はそれだった。目立つ気がない=何もやる気がない、彼女にとってそれは迷惑な話でしかなかった。
「隣の相場くんがやるって言ってるし、席隣同士だから男女で連携取りやすいでしょ」
濱口の言葉に中野ちゃんは絶句。
俺は彼女と同じ仕事ができることに喜びを感じていた。ナイスだ俺、ナイスだ濱口。
「困る……」
ボソッと呟いた中野ちゃんの発言は、心底思っていたみたいだけど、後の祭り。みんな中野ちゃんがやるってことで合致してしまった。
中野ちゃんにとって、何が困ったのか。それは自分が運動神経が良いからだった。ただでさえ目立つのに、それが体育委員なんて言ったら余計目立つ。
しかも、1組のスポーツ科に負けないくらいの運動神経を誇る彼女はいつしか1組の女子の敵と見なされるようになった。
目立つのが嫌なのは、敵が増えるのが嫌とイコールだったのかもしれない。
そういえば、俺が中野ちゃんに絡んでるときに、俺を好いているらしい1組の女子が来て、危うく喧嘩を吹っ掛けられそうになったのを覚えている。
中野ちゃんは何の相手もせず、友達のところに行っちゃったんだけども。
そんな中野ちゃんは、クラスでは人気者だった。うつ病で休んだときも、みんな驚きを隠せなかった。
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