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「あ、ここ」
そんな昔話を聞いていると、山口さんは足を止めた。一軒家をみて、違和感を覚える。
試しにインターホンを鳴らす。ピンポーンと音は鳴り響いた。
出てきたのは、ちょうど俺たちの母親と同い年くらいの女性だった。もしかして、中野ちゃんの母親かな? と思っているとどうも様子がおかしい。
「ん? どなた?」
俺はともかく、山口さんをわからないってことはあるのか?
山口さんを見れば、顔が真っ青になっている。
まさか……。予感が過る。
俺は未だに喋ることのできない山口さんに代わって、女性に話しかける。
「あの、中野香夜さんいらっしゃいますか?」
こうなるなら、表札見ておくんだった。
表札はドアの前にあるポストにあるらしくて、ドアの横にはない。
女性は俺の質問にきょとんとする。
「中野香夜……。ああ、中野さんね」
いや、来た意味はあったかもしれない。期待が上がる。
「中野さん一家なら、3週間前に引っ越したわよ。大変よね。あんな事件があって、この家を手放さないとならなかったんですって。だから、私が買い取って住んでるの。娘さんの友達なら心配で来るわよね……」
案外お喋りみたいだ。俺はごくりと息を飲む。
もしかしたら、この人は中野ちゃんの今の居場所を知っているのではないだろうか。
「あの。今の中野さんの居場所ってわかりますか?」
なんかやってることがストーカーチックだな、と思いつつ、隣に山口さんがいてホッとする。
俺だけだったら、絶対怪しまれている。
山口さんは引きつったような、ショックを受けたような表情を未だに浮かべていて、どれだけ深く傷ついたのかが窺えた。
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