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「ごめんなさい。私は不動産を通して買ったから、中野さんがどこにいるかはわからないの……」
「電話番号は?」
住所も電話番号も知らないらしく、首を横に振られた。
「そうですか……」
「ごめんなさいね。私も一度挨拶したかったんだけど、あの事件の後だから、そういったところは慎重みたいで……、中野って言う名前くらいしか知らないのよ」
何度も謝る女性は、いい人だった。親身になってくれたけど、結局、中野ちゃんの居場所がわかることはなくて、俺たちは途方に暮れながら、ファーストフード店に入った。
山口さんは終始黙ったままだった。
そりゃそうだ。中野ちゃんが黙っていってしまったことが、ショックで堪らないだろう。
「山口さん、大丈夫?」
「あ……うん。ここ、よく香夜と来てたんだよね」
地元だから、中野ちゃんとの思い出が多い。
俺はどう返事をしていいかわからなかった。
「こんなことなら香夜の新しい学校聞いておくんだった……」
俺と同じことを思っている。
「他の友達に聞いてみたんだけど、やっぱり香夜の居場所もメアドも知らないって」
山口さんは顔を歪めた。
つまり、中野ちゃんは一人で旅立ったということだ。一からの人生を歩んでいる。
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