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顔に出ていたのか緒方さんは苦笑している。どうせ聞きたくて仕方ないんでしょ、と呆れた顔だ。
そして、そこから神妙な面持ちで話を続けた。
「……半年以上前なんですけど、宮城野知春がこの高校に来ました」
「え?」
ガタッと音を立てる。
緒方さんの声は心なしか少し小さくなっている。
密室なのに慎重になっているのがわかった。
「私、会っちゃって、中野香夜を知らないか聞かれたんです。でも、すぐに宮城野知春だって気づいたから、そんな人知らないって答えたんです」
「そしたらなんて?」
「宮城野は私に職員室を案内させました。だから一緒だったんですけど、先生たちも事情知っていたので中野香夜という生徒はうちに来ていないと彼女に伝えていました」
「……そっか」
「多分、気づかないで終わったと思います。納得してはなかったですけど」
中野ちゃんが誰にも見つからないようにしたトリック。
留年は考えてなかったにせよ、学年が奇跡的に変わり、さらに名前を変えた。
俺もこれに騙された。
「で、そのあとに笑美先輩がどこにいるのか個人的に聞いたんです。職員室で」
なぜ、そんなことができるのか不思議で仕方なかった。
首をかしげていると面白がった赤木が口を開く。
「あ、こいつ学校の番長なんで」
「勝手に番長言うな! あたしは番長じゃない!!」
「おー、怖い怖い」
からかう赤木に緒方さんは睨み付ける。
言葉遣いが悪いだけでどうやら彼女は不良ではないようだ。
赤木の言葉を読み取ると、彼女は学校のリーダーのような存在なのだと感じる。
だからいろんな情報を持っているし、周りをまとめている。
そんな様子がとって読めるのは、中野ちゃんと緒方さんが同じ人種であると感じているからかもしれない。
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