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8月5日
地球に残る。
この決心が決行に変わるまでに、周囲の人たちの誘いを何年間も拒み続ける忍耐力が必要だった。
どいつもこいつも口を開けば「なんで移住しないの?」と勝手に僕を心配し、時には怒ったりもする。
とにかくウンザリだった。移住計画最終日になった今日、僕の決意は、彼らの熱意を余裕で上まわったままだ。
僕は今、巨大旅客宇宙船の最後の一団が空に向かって一斉に飛び立つのを、草原に寝転がりながら見上げている。
宇宙船は尖った船首を空に向けて、胴体部分がむっくりと膨らんだ不恰好なスタイルだ。顔立ちの整ったデブが上を向いているみたいで、まさに乗り込んだ連中を反映していると言っていいと思う。
背の高さは400階建てのビルに相当する。一度に最大で10万人乗せることができるというが、実際はそれよりも、かなり少ない人数しか乗っていないはずである。家と車以外のあらゆる生活必需品が一緒に持ち込まれて船内で幅をきかせているのだから。人間を運ぶというよりも生活を運ぶと表現した方が正しい。
ほどなくして、猛烈な地響きが町全体に別れを告げた。
足先から耳の中まで細かい振動が伝わってきてムズかゆい。 それでもやっぱり、体を震わせる重低音が僕の涙腺を刺激することは最後までなかった。
宇宙船は空を海と勘違いしているみたいだ。
雲ひとつない空の青色に、船が残した白い航跡が何本も描かれ、縦ジマ模様になっている。空がストライプになるのは、ここ数ヶ月間何度も見てきたので違和感はとっくにない。
宇宙船はあっという間に、空にめり込んだ。
星に到着するのは一ヵ月後。
到着してから家族や友人は僕にコスモメールを送ってくれるらしい。きっと自慢話がほとんどであろう。
新しい星に住む者は、すべての面で地球を見下せると聞いている。大きさは地球の14倍で、大小様々なサイズの島が無数に浮かぶ。気候は穏やかでタンスの半分がTシャツで占められるくらいだという。資源はふんだんにあり、使いたい放題。すべての住人を対象に、最低でも遊園地サイズの島が与えられ、その上に安く豪邸を乗せることができる。
少しの労働で多くの豊かさが手に入る・・・・・・ということらしい。
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