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人間がいなくなっても、町のインフラは機能していた。
日本人は面倒くさい仕事をことごとく捨てる技術を持っていた。
あらゆることがオートメーション化され、料理は全自動で用意される。海外との貿易は完全にストップしているため、外国産の食べ物はもう口に入ることはないが、国内で生産されたものは、あらかじめリストアップしておけばいつだって手に入るし、新鮮な野菜や果物が一度も人間の手に触れないで冷蔵庫に並べられる。
料理名を台所のクックロボにインプットしておけば、可能な限りのテクニックと手間をかけて、温かい料理を皿に並べてくれる。
僕のバイクは信号機から発信される電波を受け止めて一時停止を繰り返しながら、法定速度を守りながら走っていた。
やわらかい向かい風が、シャツの胸元と前髪をやさしくさすっていた。
人間の去った街で警戒心を解き始めていた小動物たちは、僕の出現に戸惑っていた。
「今なら人間に勝てるかも」と踏んだのかもしれない。鳥たちは遠くまで飛び立たずに、空中で相談しているみたいだった。
赤く染まったビル群を見上げながら、僕は平常心を装って道路を走りぬけた。
人間型のキャッチ・ロボットたちは、道路わきで直立不動の状態で固まったままだ。事件や事故といった仕事がなければ、このまま錆び付いてしまうのだろう。彼らの黒い目は子供のようにまっすぐで、目が合うと居たたまれなくなる。
もう二度と彼らの出番はない、というわけではない。僕が今、誰もいなくなったこの街で信号無視をしたらおしまいだ。キャッチ・ロボに取り押さえられて地下行き。
8月なのに冷たい風が吹いていて、なんだかとても気持ちがいい。
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