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「あぁ・・・。真司の最後の作品をあの子が触っちゃってね。最悪の災いが彼女を襲う瞬間、最後の希望が奇跡を起こした・・・。で、彼女はその恩返しの為にここで働きたいと。このカフェスペースも彼女の提案で始めた。僕ら兄弟は、カフェバーから離れられないのかも知れないなぁ・・・」と藤村はマグカップを手の中でクルクルと回しながら言った。
「良いじゃない。カフェバーの中で売るアンティークもなかなかだったよ。今は、アンティーク雑貨がメインなようだけど・・・」と凛子は店内に視線を回した。
「アイツの作った雑貨用品を、いつまでも倉庫に置いておくわけにもいかなし、何より、アイツは人の幸せを願って作った作品だ。人を幸せにするための雑貨なら、人々の手に渡った方がアイツも喜ぶだろう。だったらってね・・・。まぁ、あのパンドラメガネはアイツとしては失敗作だったけど・・・、今思えば、使い方によっては人を幸せに出来る物だって事が、最近になってわかって来たよ」と藤村が言うと、凛子は「彼が作った物に失敗作は無いわよ。お兄さんが作った物にはいくつか失敗作が見受けられましたけど・・・」と微笑しながら言った。
「失礼だな、凛ちゃん。最初に作ったのは僕が先だよ。成功させたのもね・・・」と藤村は言うと、凛子の前の椅子に座った。
二人は視線を合わせた。
「初めてだね・・・。こうやって互いの目を見て話すのって・・・」
「最初に知り合った時は、君はまだ高校生だったしね・・・。僕は・・・、いや、俺は30代半ばのおっさん。10歳年下の真司がちょうどお似合いだと思ってさ」
「で、彼を紹介したの?私の本当の気持ちを知りながら・・・」と凛子が藤村の瞳の奥を覗く様に目に力を込める。
「睨むなよ・・・。そっちの方が良いと思ったし、何より、今の俺の姿を見てごらん。頭はこの通り剥げてきているし、腹だって出てきている。もう40半ばになると、君みたいな美人には不釣り合いだよ」
「それは、トクさんが決める事じゃない・・・。私が決める事。シンちゃんを好きになるのか、トクさんを好きになるのか。でも、シンちゃんを好きになってよかった。シンちゃんを愛して良かったと思う。シンちゃんを愛する事で、女優として、モデルとして輝く事が出来たから・・・」
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