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「これ・・・、彼が唯一失敗したと言っていた作品。人の人生を狂わせる置時計だって」と凛子は言いながら、手に取った時計を細部まで細かく眺めるかように、手の中で回しながら見廻した。
「そう。人の人生を狂わせる時計。真司の失敗作。でもね・・・、これってアイツにとっては最高傑作なんだよ。アイツの中の作品中、一番の傑作品だよ」と藤村はうっすら涙が浮かび上がった目で説明を始めた。
「どうして・・・?」と凛子は静かに置時計をテーブルに置きながら聞く。
「さっき話した彼女もそうだけど、人に幸せを贈って来たんだよ、今までね。人の人生を狂わせるなんて一人を除いては嘘なんだよ。たくさんの、大勢の人を幸せにしてきたんだよ。この時計は・・・。そして、たぶん。今日これから罪滅ぼしの為に、君に幸せを贈ると思う。その時計の裏に電池を入れる蓋があるでしょう。開けてごらん」と、藤村はテーブルの上で置時計の向きを変え、凛子の前に背中が向く様にした。
凛子はゆっくりと置時計を手に取り、電池を入れる蓋を開けてみる。
中には電池が入っているが、その隣には茶色の少し色褪せた箱が一緒に入っている。
凛子はその箱を時計から取り出す。
「それは、アイツからのプレゼントだよ」と藤村は言うと、「開けてごらん」と凛子に勧めた。
凛子は言われるがままに茶色の箱をゆっくりと開く。材質は木で出来ている箱が、軋みも無く静かに凛子の指の力だけで開く。すると、中には銀色のネックレスが入っていた。
凛子は箱から銀色のネックレスを持ち上げる。見た感じで凛子はネックレスの鎖部分はプラチナだとわかった。そして、鎖の先端には小さなプラチナで造られたロケットペンダントが繋がられていた。
「ロケット・・・ペンダント?」と凛子が首を傾げると、藤村は微笑みながら「アイツらしいよ」と苦笑交じりに言った。
凛子はさらに首を傾げながらロケットを開いてみる。すると、中には一枚の写真と一緒に、指輪が入っていた。
「写真・・・?それに、指輪?これって・・・、ダイヤモンド!」と凛子が声を挙げる。
「そう。それが罪滅ぼしだってさ。あのバカ、回りくどい事をしてさ」と藤村が言う。
その表情を見つめながら、凛子は写真を取り出して見た。その写真の大きさは指先サイズだが、中に写っている人物の姿ははっきりとわかる。
凛子と真司が並んで写っている写真だった。
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