思い出のロケット

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「これ・・・、二人で写した最初の写真・・・。何でこれが罪滅ぼしなの・・・?」と凛子が囁く。 「一人の女性の人生を狂わせた・・・。その罪滅ぼし・・・。凛ちゃん。アイツは君の人生を狂わせた。自分が愛さなければ、もっと世界的な女優になると、自分よりも素敵な彼氏が見つかり、愛し合い、結婚出来る筈だと・・・。それなのに、自分と愛し合ってしまい、君の人生を狂わせたと。その罪滅ぼしに、このロケットと最初に二人で写した写真、それと、君を永遠に守り続ける意思を伝える指輪」 「まさか・・・、婚約指輪?」 「そうらしい・・・。不器用なアイツらしくない?」  と、突然、置時計から声が流れ始めた。 『凛子!ロケットを開いてくれたね。なら、迷わずはっきりと伝えます。俺と結婚してくれ!いや・・・、結婚してください』  二人の視線が置時計に集中する。 『この場に兄貴も俺もいない事を祈って、凛子一人で聞いている事を信じて言わせてくれ。全く不器用な俺がさ、凛子と出会い、そして凛子と付き合う事になってから毎日が幸せだよ。毎日が幸せだけど、凛子の女優、モデルとして人生を狂わせているんじゃないかと心配でさ。俺なんか、兄貴と一緒に好きな事を仕事にして、儲けも本当、全く無いのに凛子は楽しそうに俺の話を聞いてくれる。撮影やら営業で疲れて帰って来ているのに、必ず、店や俺の部屋に来ては、俺の身の回りの事をしてくれる。そんな姿を凛子のファンが見たらどう思うだろう・・・。俺、間違いなく殺されるな・・・。だから、ここで俺自身けじめをつける意味で言わせてください。凛子!結婚してください。俺は一生、君を幸せにします。ガサガサ・・・。勝手に入って来るなよ!兄貴・・・』  音声はそこで切れた。 「アハハハ・・・。アイツ、あの時これを録音していたんだ」と藤村は体を仰け反って大笑いをした。  そんな姿を見ながら、凛子は二人で写っている写真を指で撫でる。そして、一緒に入っていた指輪を手にすると、自分の薬指にはめてみた。 「シンちゃんの馬鹿!少し・・・、キツいよ・・・」と凛子は関節の所で止まった指輪を一度外した。 「真司が間違える筈が無い・・・。凛ちゃん、太った?」と藤村が言うと、凛子は怖い顔をして睨んだ。
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