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驚いた。
心がすっかり離れてしまったと思っていたのに、考えていることは同じだった。
なんたる皮肉なのだろう。
そう思い自嘲気味に、無意識に顔に笑みが刻まれる。
それを見たのか、彼女もふんわりと微笑んだ気配がした。
「円満破局といきましょう。わたし、あなたのことはすきなの」
友達としてはね。
確かに、僕もそうだ。
彼女とは気が合うし、共通の趣味も多い。
映画の好みも似ているし、ただ合わないのは服や靴のサイズだけだった。
僕は静かに、笑顔を作って頷くと、彼女を見据える。
高校の頃よりも髪が幾分か伸びた。
真っ黒に輝いていた髪の毛は暗い茶色に染められているが、輝きは今もなお変わらない。
絹のような手触りはいつから感じていないのだろうか。
片耳につけられたピアスも、彼女から漂う香水も、その切なさを帯びる瞳も、僕が関与しているものだ。
こうして思うと、僕と彼女はお互いに支え合い、関わり合っていたのだ。
「また、カレー食べに行こう」
そう言って、どちらからともなく握手を交わした。
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