序章

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そして2019年の今、AIは千万人単位 の国民の職を即座に奪う圧倒的な存在となっていた。 肉体労働・頭脳労働・全ての 労働価値が崩壊し、AIを使う立場に回ることのできる ごく一部の既得権者のみ 安泰を謳歌する社会が現実のものになっていた。 技術革新の激流は、旧来から雇用労働者の安全弁や砦として 機能していた 正社員制度を飲み込み、 完全に根本から破壊した。 重要なのは正社員や執行役員ではない、人工頭脳、AIが重要だと 言われるようになった。 不幸中の幸いに、隼人はリサーチ・アンド・サイエンティフィック社から 温情とも言うべき3千万円の退職金を受け取った。 妻子とは退職と共に離婚をして決別した。 何も今の家族が憎いとか 別々に暮らしたいのではなく、 息子・娘を思いやってのことだった。 退職金には80%の重税が課される、 但し、学童の教育費や離婚した配偶者への慰謝料に 還流する場合は特例で非課税になった。 隼人は超高額の学費が必要とされる AIスーパー・スクールに自分の息子・娘を入学させ、 将来を不幸に染めないように配慮したのだった。 事業部長のポジションを失い、 整理解雇された隼人は、 日々やることもなくAIが導入できない零細企業の データ入力の短期薄給アルバイトで収入を繋いでいた。
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