第5話「アイス様」

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第5話「アイス様」

もしこの世の中にアイスの神様いるとしたなら間違いなく彼女は秀でた巫女になるのだろう。 彼女のアイスへの拘りは半端ではない。 新製品を常にチェックして発売されるや一度は食してみないと落ち着かないのだ。 抹茶系や小豆系が特に好みなのだが、端から見ていると結局はアイスという形態ならば何でもいいのではとすら思える。 例えそれが彼女の苦手とするゴーヤであっても宇治金時ゴーヤ風のアイスなら喜んで食べるに違いない。 『今日ね、いつものコンビニで超絶美味しそうな未知のアイスを4つも見つけたよ!』 まるで新種を発見した昆虫学者のように興奮しながら彼女が言った。 普段は冷静沈着で物事を客観視できる彼女がアイスの話になると人格が変わってしまうことに私はまだ慣れていない。 『ちょっと待って。確か10日くらい前に「アイスさようなら」って決別宣言してなかったっけ?』 そう私が言うと 『だからね、我慢したの。ひとまず!我慢したの』 彼女は褒めてとばかりに話す。 それは禁煙者がタバコの臭いを嗅いでも我慢できたと喜んでいる姿とオーバーラップする。 『この冬の目標は糖質制限をして最高の形で春を迎えるんだよね?』 昨日の夜にそう誓ったばかりなのである。 『そうだよ。今年の冬はいつもみたいに太らないんだから!』 彼女はキッパリと言った。 ほとんどの女子にとって「太る」事は恐怖なのかもしれない。 だだ彼女はスレンダーだし「太った」ところを一度も見たことが無い。 そして何事もなく平穏な日々が続いた。 1週間ほど過ぎたある夜の事。 仕事を終えて帰宅した私に彼女が小走りで寄ってきて 『見て、見て!』 とキッチンへ引っ張っていく。 『ジャーン!!』 と言いながら冷凍庫のドアを開くと、そこには1個のアイスがあった。 『あーあ。買ったんだぁ…』 私が嘆いていると 『だってね。どうしても我慢できなかったんだもん。それにね。これアイスじゃなくて「もなか」って書いてあったし』 確かに商品名は「安納芋もなか」と記されてはいるけれど最中なはずがない。 だいたい裏面の種類にアイスクリームと明記されているのだ。 私が半ば諦めた口調で 『しょうがないなぁ』と呟くと 『ありがとう。嬉しい!』 彼女はそのアイスをクリスタル製のアイス皿に乗せると大事そうにリビングへ持って行った。
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