リョナ

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 ノンフィクション・ライター欅田真実の失踪から一年後。  「人気ホラー作家、高屋敷先生の作品"リョナフェチ"が映画化されるそうだ。何でも実在の事件から着想を得たらしい。榎本くん、先生の所に取材してくれるか?」  「薮下編集長、その先生って、以前に真実が取材したんじゃあ」  「それが、あいつが失踪してから、作品が頓挫して流れちまったんだよ。あれから一年も経つしな、まあ、新しいチャンスだと思って行ってみてくれないかな」  「チャンス、か」  ノンフィクション作家、榎本紗弥加(えのもと さやか)は編集部のオフィスで薮下に言われた事を反芻しながら、ベンツを高屋敷の棲む一軒家に走らせる。 確かにチャンスかも知れない。榎本の遣り方は、編集部の中では奇抜な類いに入る。スマートフォンの音声入力による、肉声の執筆。後で聞いたことを思い出して加筆するより新鮮で、何より信憑性が高い。と榎本自身はそう思っている。 同時に、失踪したとは言え、友人のチャンスを奪ってしまったようで申し訳ないと感じているが。  「この家だ」  榎本のベンツは、高屋敷の家の前で停まった。  売れ筋の作家の家にしては簡素な感じを漂わせる、小ぢんまりとした家屋だった。窓には明りが点いているが、人が動く気配はない。榎本はスマートフォンを構え、玄関口に向かう。
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