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ピンポーン。
ドアフォンの間の抜けた機械音に、高屋敷が「はい」と部屋で返事をする。
「以前、作品の取材を申し込んだ、榎本と申しますが」
榎本は玄関で名乗ると「ああ、榎本、さん、ね」と良いながら、高屋敷は玄関を少し開けて、そこに立っている榎本を見る。
褐色の長髪を後で束ね、色白の顔にはナチュラルな化粧、両頬には薄桃色の頬紅、そして赤い口紅を付けているが、化粧特有の粉っぽいにおいはそこまでしない。服装は、グレーのカッターシャツに黒のジャケットにミニスカート。そこからはストッキングを履いた脚が脚線美を際立たせている。
高屋敷昭仁風に描写するならば、こんな感じだ。
「どうぞ」
榎本に警戒心を解いた、もとい合格点を与えた高屋敷は玄関を開け、部屋の中に招き入れる。
「お邪魔します」
榎本はスマホを構えながら、高屋敷の家に足を踏み入れる。彼女が音声入力をオンにするのは取材の為の対談を始めた直後、勿論、そこには、自分の肉声も入れる。榎本はこれが取材におけるフェアプレイだと思っている。
部屋の中は榎本がイメージしていた、くしゃくしゃになった原稿や、煙草の吸殻が山積みになった灰皿などが散らばる四畳半の空間とは異なり、洋風のテーブルや食器棚が配置され、ガーベラやモンステラなどの観葉植物が飾られた、フローリングのモダンな雰囲気のある部屋だった。
「どうぞ、お茶でも出しますよ」
高屋敷はそう言うと、キッチンへ向かい、珈琲カップにティーパックを入れ、ケトルからお湯を注いだ。
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