リョナ

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 「有り難うございます」  榎本は高屋敷が運んで来た珈琲を口に含み、緊張を解す。何時だってそうだ。インタビューをする時は緊張する。例えばある殺人事件の被害者遺族の時は、誰にも話したくもないし、思い出したくもない話をあれこれと質問され、どうして人の不幸をネタに生きる連中の為に話さなければならないのか? そんな視線を向けられることが多かった。  けれど、被害者遺族の訴えを知って欲しいと思って取材しても、気持ちはすれ違うだけだった。  今回の相手は異質だが......。  深呼吸を一つ、スマートフォンの音声入力をオンにしてインタビューを開始する。  「高屋敷昭仁先生、先ずは作品"リョナフェチ"の映画化、おめでとうございます」  「ああ、有り難う、御座います」  「では、先生の作品、リョナフェチについてですが」ここで取材前に読んだ原作の内容を思い出す「リョナフェチって言う所謂"悲鳴コレクター"が美女の悲鳴を聞く為に猟奇殺人を繰り返すと言うサイコスリラーですが、実在の事件をモデルにした話ですけど、どの事件です?」  「欅田真実の失踪事件、です」  「           !」  榎本は足元から、戦慄が足を生やして虫の大群ように這い上がって来るような感覚に襲われた。  「あの事件は、未解決の壗ですが、先生は、執筆の為に警察や欅田さんの関係者に、色々お話を伺ってそれを元に書かれたんですね。お疲れ様です」  「いえ、どうも」  「でも先生、こうしたタイプのお話は、ある種のメッセージ性があると思うんですが、作品に対して何かメッセージのようなものはありますか?」  「人間性の客観的理解、かな」  「なる程、深いメッセージですね、確かにサイコパス、もとい、リョナフェチと言う特異な人種が登場   !?」  榎本が頷きながらそう言うと、高屋敷は眉をぴくんとひきつらせた。確かに客観的理解を求めるキャラクターに対して、サイコパスだの特異な人種だのは言葉が過ぎたかも知れない。高屋敷の表情に気付いた榎本は訂正する。
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