リョナ

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 「失礼しました。個性的なキャラクターが登場する話ですが、先生は"被害者が悲鳴をあげながら殺人者から逃げ回る描写"にとても定評がありますよね」  「そうなの? 以前にも似たような事を質問されたけど、僕が求めていたのとは違うな、でも、有り難う、御座います」  殺害される前の欅田も同じ質問をしていたのを思い出し、高屋敷は苦笑すると「それは世間の定評だよね、君自身の感想は?」と訊ね返す。  「断とうにも断ち切れない性(さが)に抗いながらも翻弄されて苦しむ殺人者の生き様と、必死に生きようとして殺害される被害者の人生観が交錯している作品が多く見受けられます。そこに被害者遺族の訴えたいことも聞こえなくなる程」  「被害者遺族は、君の人生観?」  「そうですね。これは先生の取材ですから先生の話をしましょう。あのリアルな描写はどうやって出来上がるんですか?」  榎本も、高屋敷の描写の秘密に興味を持った。  欅田は殺害されているので、今や、誰一人高屋敷の描写の秘密を知る人間はいない。誰よりも早くこの秘密を独占出来る。榎本の目は一段と輝いた。  「知り、たい?」  高屋敷は口角を吊り上げた。いよいよ獲物の悲鳴を聞く事が出来るが、今、素生を知られる訳にはいかない。本性を露にして、嫌われてしまうことより悲鳴を聞けなくなってしまうことの方が遥かにショックだ。堪えろ堪えろ。そう思いながら、高屋敷は敢えて言葉を区切った。
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