遠距離(仮)の日々3

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 この春から夏にかけて、ぞぞむが新疆ウイグル族自治区を回って、絨毯工場まで買いつけに行ったのはこのためだった。店の商品にどうしても質のよい手織り絨毯を手に入れたかったのだ。  ぞぞむが選んできたその手織り絨毯は、店のおくに作られた小上がりに敷いてあり、客はゆっくり鑑賞できるようになっている。  北京店の取扱い商品のなかでは、雲南省の少数民族たちの伝統刺繍を使った布で作ったクッションカバーや化粧ポーチ、ポシェットなどは観光客の目をひいてよく売れていた。  軽くてかさばらず、デザインがかわいいからお土産にいいのだろう。北京で雲南省のものが手に入るというのも大きなポイントかもしれない。  苗族(ミャオズー)の作った布コースターとランチョンマットをそろえて棚に並べていくという地味な作業を、土曜の夜の閉店後の店で孝弘は手伝わされていた。  おおっぴらにはスタッフと言えないが、こうやって時間があるときはなるべく店にも顔を出している。おとといのパーティを終えて、レオンは2日後には一旦、香港へ帰ってしまう。あとは店長を任された張東明(ジャントンミン)の采配によって店は運営されるのだ。  ぞぞむと孝弘の留学時代からもう5年のつき合いがある日本語専攻だった中国人店長は、日本語も堪能で日本の習慣にも理解がある。日本留学の経験もあり安心して店を任せることができた。
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