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確か年は30代で、ぼくの家の隣に住んでいる。
いつもは、家に閉じこもってばかりで働こうともしない。けど、一日限りの依頼を受けるとすぐに家から飛び出すんだ。
ぼくたちは日雇いロケット探偵と呼んでいた。
本田さんはぼくの耳に髭面を近づけ細目で囁いた。
「早く帰った方がいいよ。ここで、人がいなくなるんだってさ。誰の依頼かは言えないが、あるお金持ちの依頼人に頼まれてね。この店を調査しに来たんだ」
きっと、依頼主に人探しを頼まれたのだろう。
ぼくはニッコリ笑って「そんなことは聞いたことも無いよ」と本田から離れた。
数ある飾り窓からは、この町のリンギーネ塔と海辺の方向が見渡せる。
リンギーネ塔はその名の通りに、近くにこの町の殆どのイタリアンレストランが密集しているからだ。
古い町並みはみんな午後の紅茶を楽しんでいるのだろう。
太陽の直射日光が無数のメガネに反射して、すっきりとした天気もメガネの宣伝をしているかのようだ。
ぼくたちは日が暮れる前に、店の秘密を探ることにした。
本田さんよりも先に見つけようと春奈がぼくに囁いた。
無言の小松は少し塞ぎ気味だ。
この店は六階建てで、一つしかない階段が一階から六階まで伸びている。何度も改築した後だから地下もあるはずだ。後はエレベーターが数基ある。
「ねえ、徹底的にあの階段の周囲を調べましょうよ。きっと、古いし開業前に造られたはずだから、地下に通じる何かがあるはずよ。そこで、たくさんの行方不明者が煮えたぎった鍋に入れられているのよ。溶けて跡形もなくなる前に助け出さなくちゃ」
春奈はそう言うと、ニッコリ笑ってぼくの手と小松の手を引っ張りだした。
春奈が嬉しそうにはしゃいでいるから、客たちは微笑ましい目でぼくたちを見つめている。
強引に引っ張る春奈は、まずは床を調べた。トントンと小さな手で階段の踊り場にある白黒の床を叩いたり、短めの髪を振りながら下へと降りる梯子などを探していると。
クリクリとした目で、ついに何かを見つけたようだ。
小さな飾り窓のカラフルなガラスを外す。
ぼくと小松も、強い風を受けている殺風景な庭の中央に地下へと通じる階段が見えた。
丁度、見えにくい木々の間にある。
ぼくたちは、買い物客に気付かれないように庭へと窓を這い出した。
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