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「なあ、地下があるから、春奈の考えって結構当たっているんじゃないのか? おれ、実は怖くてすぐに帰りたいんだよな」
庭を歩く丸坊主の小松は蜘蛛の巣のある薄暗い地下まで、真っ先に喜び勇んで階段を降りていく春奈を不安げに見つめていた。
地下にはやはり牢屋のような空間が壁に幾つも造られていた。
鉄格子が嵌められ、必要最小限の生活区域の牢屋には、浮かない顔の大人たちが6人もいた。
反対側の空間には大型テレビが設置され、複数の古い椅子がテレビに面して釘や針金で固定されていた。
牢屋の中の人たちは、ぼくたちに気付くと小声で「助けてくれ。早く出してくれ」と懇願している。
「早くこの人たちを助け出さないと! 煮えたぎった鍋に放り込まれてしまうわ!」
春奈は心配して鍵を見つけようとした。
けれど、大型テレビ以外には椅子だけしかない。
鍵のありそうな場所は、この空間にはなかった。
その時、ぼくたちが降りて来た地上からの階段から足音が近づいてきた。
コツコツとした硬い靴の音が迫って来る。
「お願い。隠れて」
一人の中年女性がぼくと春奈に小声で警告した。
小松はビビッて大型テレビの後ろへと隠れた。
ぼくと春奈は慌てていたので、すぐさまお互いに同じ方向へと走り出して、二人でおでこをぶつけあう。
春奈の頭は以外に固かった。
ぼくは気を失ったみたいだ。
目を開けると、それぞれ椅子の上に座るように固定された大人たちが列を作っている。あの隠れろと言ってくれた中年女性も大型テレビを間近で観せられていた。
ぼくと春奈も同じで、椅子に針金で固定されていた。
白いスーツ姿の美人のお姉さんたちに「大型テレビを観ろ!」と脅された。
テレビには色々な番組が飛び飛びで映し出される。
美人のお姉さんたちは、中年女性や他の大人たちを「さあ、メガネを買うか!? 買わないか!?」と脅していた。
大人たちは虚ろな目で、みんな震え上がってテレビを凝視していた。
隣の春奈はウインクして、
「当然、買いますと言うのよ」
悪戯っ子のように笑った。
ぼくと小松と春奈は新調したメガネを掛けて、店を出た。
外は相変わらず風が強いが快晴だった。
本田は庭の地下へと通じる階段をあの後見つけただろうか?
あの美人のお姉さんたちは、メガネ愛好家のボランティアの人たちだった。
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