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「うわあぁぁぁああああああ!!!!」 「あ………さん――――」 「浅井さん、大丈夫ですか?」  浅井と呼ばれた男が顔をあげると、そこにはストレートヘアーの若い女性が心配そうに自分をのぞきこんでいるのが視界に飛び込んできた。  3か月前、途中入社してきた契約社員の……名前は確か、伊藤とか佐藤とか、どこにでもあるような名前だったと思う……と浅井は、ぼんやりと考えていた。  誰もいない自社の屋上。  どこをどう歩いたのか気付いたら浅井はここにたどりついていた。 「もう。びっくりしちゃいましたよ。急に悲鳴あげて部屋から飛び出していくんですから」  彼女は笑いながら浅井に缶の無糖コーヒーを差し出した。差し出したというより浅井の胸元に押し付けたといったほうが正しいだろう。  フェンスに背中を押し付けて凭れるように立っていた浅井の隣に並ぶと契約社員の彼女はプルトップを開け、ゴクゴクと缶ジュースを飲みはじめた。自分が満足するだけの量を喉奥に流しこむと手の甲で軽く唇を拭う。ふっと短い息をつき、浅井を改めてみつめた。 「あのカレンダーがどうかしましたか?」  すでに誰もいないオフィス。残業で残っていたのは自分と浅井だけだった。  印刷会社から届けられたばかりの来年の自社カレンダーを浅井の前で開いてみたのは軽い思いつきだった。残業の息抜きな話題としてネタが必要だったのだ。  今、思いだしても、どうってことのないカレンダーだ。  写真もイラストもなく、ただ自社のロゴが下に印刷されているだけ。その面白みのなさは社内でも不評で毎年、誰も引き取り手がないという。年が明ければゴミに変わるような代物だ。
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