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「オレは……カレンダーが怖いんだ」
項垂れたまま力なく呟いた。
はい?と彼女は小首を傾け浅井を見る。
「最初にあれがおこったのは小学生の頃……」
浅井はゆっくりと語りはじめる。
「ひとりで留守番していた俺は家の日めくりカレンダーをやぶって遊んでた。破っては捨て、破っては捨て……どんどん破っていくうちにやがて目印がついてる日付を見つけた。それは日にちが赤い丸で囲まれてその下に赤い文字で『記念日』って書かれてた。でも子供の俺にはなんの記念日か分らなかった。家族の誰かの誕生日でもなかったし……」
押し付けられた缶コーヒーを両手に持ち、視線は屋上のどこか遠くの景色を見据えていた。
「そんな事があったことすら忘れていたある日、オレはトラックにはねられて自転車ごと飛ばされた。景色が逆さまになって、気づいたら病院のベッドの上だった。母親から2週間、意識がなかったときかされた。俺が事故にあったのはあのカレンダーの記念日とおなじ日だった」
「なにそれ? そんなの偶然じゃないんですか」
契約社員の彼女が口に含んだばかりのジュースをプッと噴き出しかけたが、浅井の鋭い視線に気づき、慌ててあいた片手で口元を抑え、笑いをごまかす。
「信じなければそれでいい。そのカレンダーの赤い丸も赤い文字もオレにしか見えてない。だがその後、1年に1回のペースで確実にそれはおこるようになった」
両手に力がはいり手にしていたスチール缶が音をたて凹む。
「家のカレンダーはすべて取り外しても、友達の家や泊りにいった祖父の家でカレンダーが貼ってあれば、そこで見つけることもあった。赤い丸でかこってある数字と、『記念日』の赤い3文字を……そして必ずオレはその日に死ぬ目にあう」
彼女はなにか言いかけようと口を開きかけたが、それより先に浅井は言葉を次いだ。
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