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浅井が投げ出した缶が風に煽られ彼女のヒールにぶつかった。
缶の底に記されているまだ先であるはずの賞味期限の日付が今日の日付に変化し、赤い丸で囲まれている。そして数字の下に血のような赤い文字で色濃く『記念日』と書かれているのに彼女は気付かなかった。
浅井の死はノイローゼによる自殺として処理された。
「そういえばさ……浅井さんって、な~んか暗い人だったよね」
「最後に会ったのは最近、入社した田中さんって人らしいよ。警察にいろいろ聞かれたみたい」
昼休みの社員食堂……
奥のテーブルでは数人の女子社員のグループが陣取り、普段よりも声を落として暗いネタを雑談に投下していたところだった。そういったグループの光景がまだ事件から日の浅いこともあり、社食のあちこちに見られた。
「あの夜、たまたま一緒に残業してたみたいだけど、浅井さんが途中からいなくなったので先に帰ったっんだって」
「あれから彼女も出社してないよね。エリちゃんは浅井さんや田中さんと同じ部署でしょ? なにか聞いてないの?」
エリちゃんと呼びかけられたその女子社員の視線はある方向に釘付けになっていた。
「エリちゃん?」
彼女がじっと見つめていたのは食堂に飾られていた自社カレンダーだった。
そのカレンダーの中の1つの日付が赤色の丸で囲まれ、その数字の下には「記念日」……と赤色の文字でくっきりと刻まれていた。
「ねぇ……記念日ってなに……?」
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