後世へ

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実を言うと、あれからどうやって帰ったのかははっきり覚えていない。 ただ、気付けば帰りのバスに乗っていて、行きの運転手に何故か感動された、それだけは鮮明に思い出せる。 当日はそのまま直帰し、次の日に何事もなく職場に行くと、あれほど笑顔で見送った上司がすごく僕を心配して何度も大丈夫か、と声をかけてきた。それは、上司も例の集落は危ない場所だと知っていたかららしい。なら出発前に心配しろよ、そう心の中で呟いたが、正直あの出来事を体験した後ではそんなこと口には出せなかった。 持ち帰ったビデオカメラに衝撃映像はない。ただ現地に行ったことは評価に値するらしく、上司は中途半端にまたお願いな、そう言って後の作業を全て僕に押し付けた。 僕がこの集落での出来事を誰かに話すことはない。この連載企画に、事細かに体験した内容を書くつもりもない。 まともに書いても誰もこんなこと信じないだろう。例え書いたとしてそれを見たオカルト好きが現場に行って同じ体験をできるわけないだろうし。これは僕の心に留めておくのが一番だ。 しかし、そんなことより僕はまずやらなければいけないことがあった。 彼が勇気を出して僕に伝えたかったこと、空白を埋めなければいけない。 そして、僕は警察署に電話をした。 彼と、老女の、消息不明を消すことから始めようと。 電話してすぐに警察が編集部にきた。唖然とする上司に一言、また行ってきます、そう告げて僕はあの集落へ今度は警察と一緒に赴いた。もう気分が悪くなることもなく、あの家屋での超常現象を再び体験することもなかった。彼には自分の行いを悔いていてほしくない。あなたは悪くないよ。あなたが僕に預けてくれた大役を、僕はちゃんと果たさなければいけないね。 家屋の畳をめくり上げ、その下の土を掘っていくと、土葬した遺体、老女の骨が見つかった。 そしてその奥には、そのまま息絶えたであろう子供の骨も発見された。
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