前世へ

3/9
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
マイナーであるこのオカルト雑誌は月刊誌だ。 月に一度は絶対に『必ず危険が起こる心霊スポット巡り』をするわけである。以前、この雑誌でアンケートを実施したことがあり、見事第一位に輝いたのはこの企画だった。つまり、落とすわけにいかないのだ。 ああ、本当に行きたくない。霊なんて出会いたくない。でも、行かなきゃいけない。 デスクに置いてある危険な心霊スポットの資料を手に取り渋々開くと、そこには一度オカルト好きで話題になったある集落の写真が載っていた。確か前の担当がずっと狙っていた場所だ。しかしあまりにも話題になっていたせいで、当時上司からのゴーサインは出なかった。それがそんな話題も収束しつつある今、僕に巡ってきたわけか。 だから、何で僕なんだよ。担当が退院したら行かせればいいじゃないか。あれほど行きたがっていたんだから。行けば前の担当に嫌味を言われ、行かなければ上司に文句を言われる。中堅社員の立場は結局新人の時とあまり変わらない。 覚悟を決めて、その集落について調べることにした。 そこは昔、新潟県の奥地に存在していた村の集落で、ある流行病によって大勢の人が病死した。しかし、その流行病に唯一罹ることのなかった当時6歳の男の子がいた。男の子の両親が病死した後、彼の面倒を見続けた老女がいたが、病気のせいか、または心に闇を隠したままだったのか、流行病にかかった老女は最期に元気な男の子に恨みの言葉を投げかけたらしい。 後日その集落に警察が来て遺体と生存者の確認をしたが、老女と男の子の遺体は発見されず、今も消息不明のままだという。 それから数十年。オカルト好きの間で話題になり、その噂は一気に広まっていった。話によると、現在も当時の家屋は現存していて、その家屋に足を踏み入れると罵声や女の狂気に満ちた叫び声、泣き声、赤ん坊や子供、老人の笑い声が聞こえてくる。そして、その声を聞いた者はその地域を離れてからもずっと魘され続け、霊媒師も頭を抱えるほどに酷い有様になるらしい。 オカルト好きはよく噂を作る。何人もの噂を経由して、新たな噂がまた新たな噂を呼ぶ。そういうものだ。この話もそういう類なのかもしれない。 「では、いってきます」 上司は笑顔で僕を見送った。危険な地域に足を踏み入れるというのに、よくそんなに笑顔でいれるもんだ。 労災はちゃんとおりるのだろうか。それだけが心配だ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!