前世へ

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異様な雰囲気はバスを降りた時から感じていた。 集落に入る前からビデオカメラを回した。さすが究極の奥地だ。どこを見渡しても緑である。数時間前まで押し潰されそうなほどの都会のビル郡にいたせいかとても開放的で、何でもできそうな気になった。ただ、そう思ったのもつかの間、山の麓に集落への入り口であろう立て看板を見つけ、そこで何故かいきなり気分が悪くなった。乗り物酔いなんてしたことないのに、吐き気が一向に治まらない。膝に手をつき、そこで立ち止まってしまった。 足が、動かない。ビデオカメラは地面をずっと映すだけ。これは心霊スポットに侵入する為に必要な洗礼なのか。胸が苦しい。助けてくれ。あわよくば見知らぬ人がここを通らないかと願ったが、そんなこと、あるはずない。オカルト好きが心霊スポット巡りにやってくる時ぐらいしかこんな場所来るはずない。ただただバッテリーが消費していく。もうだめだ。集落に入れば必ず何かが起こる。僕は命を落としてしまうかもしれない。やめよう。もう帰ろう。 そう思った瞬間、何かが自分の中からすっと抜けていく感覚がした。そして、あれほど辛かった吐き気と胸の苦しみが、急になくなった。同時に、足がすごく軽くなったのだ。 自分でも驚くほどに全てから開放され丸めた背中を正すと、集落入口の少し入った3メートルほど先に、男の子を見つけた。ただ真っ直ぐ僕を見据えて、立っていた。 恐怖と衝撃の入り混じった不思議な感覚で、僕の声は出たはずなのにその男の子を見つめることしかできなかった。 でもすぐに理解できた。 間違いなく、あの男の子は僕が調べた集落の噂に出てくる6歳ほどの男の子だと。 確証なんてないけれど、そう思った。 男の子は僕を案内するかのように、集落への山道に入っていく。そして、僕の足は導かれるようにその後を追った。決して決意して彼についていったわけじゃない。ただ自然に、彼が僕に知らせたいことがあるかのようだった。 先ほどの僕の体を蝕んだ原因は、もしかすると流行病で病死した人々の思いなのではないか。こっちにくるな、そう言いたかったのかもしれない。そして、それを彼が制止させた。 そんなことをふと考えたが、それはただの僕の願望でしかない。
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