前世へ

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男の子はいつの間にかどこかへ消えていた。そんな異様な気配も感じ取ることができないほどに、僕はこの集落の環境になじみ始めていた。 撮り続けていたビデオカメラのバッテリーが切れかけだった。もちろんそんな時の為に予備のバッテリーを持ってきていたのだが、いざ交換してみると充電したはずのバッテリーは全く充電できていなかった。 残量を示す電池表示が赤い。そして、すぐに電源が切れた。他のバッテリーも同じで、ただのおもりでしかない。これからが本番なのに、何故……。深いため息を吐いた時、集落入り口から一番近くにある家屋に入っていく男の子の背中が見えた。 すぐ後を追い、僕もその家屋へと足を踏み入れた。 部屋の中はものすごく寒く、冷たい風がどこからか流れてくる。それは単純にこの家屋の構造のせいか、ここが心霊スポットだからなのかはわからない。この部屋を今ビデオカメラで撮影すれば、必ず霊が映りこむと言えるほどの不快感と圧迫感、この冷気は今も漂い続ける生霊の感情とも言えるかもしれない。 部屋の中央にある囲炉裏を見つめる男の子。すると、彼の記憶に寄り添うように瞼を閉じた僕に共鳴するかのように、熱い何かが僕の脳裏に蘇った。 それは、僕が生まれる前の集落の様子だった。 囲炉裏を囲む男の子と老女が、楽しそうに鍋をつつく。ふと移り変わると、次はお腹いっぱいの男の子と老女が、仲良く一つの布団に入り眠りにつこうとしている。本当なら存在しているはずのない彼の背中から、僕に信号が送られ次々と目の前に当時の光景が映し出された。 そこに存在するのは、間違いなく祖母と孫の姿だった。血のつながりなど関係はない。お互いに信頼し、お互いを愛する気持ちが織り成す家族模様だ。 当時、数十年前に起こった現実。僕は彼の気からその出来事を目の前で感じて、僕が調べた噂は事実無根の捻じ曲げられたただの噂だと確信した。 ――もうやめよう。ここは企画で載せるような場所じゃない。帰ろう。 そう思い閉じた瞼を開こうとした瞬間。 急に何かに無理やり瞼を開くことを邪魔され、粘着したようぎゅっと引っ付いてびくとも開かなくなった。体も硬直し、背筋に冷たい風が当たった。やばい。死ぬ。 パニックになりかけた僕の脳裏に、また新たな当時の光景が映し出されたのだ。 脳裏に映ったその光景は、ただ一人、老女が流行病に侵され、布団に横たわり苦しむ姿だった。
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