1604人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
「実は、純太郎さんに僕が会社を辞めること言ってないんです」
「え?そうなんだ」
「純太郎さんはきっとこの先も会社を辞めろなんて言わないと思います。辞めたいだなんて言ったら逆に怒られるかもしれません」
要がため息まじりにそう言うと、浜村も激昂する純太郎の顔が浮かんだのか、あーという顔をした。
「ああ、確かに、そっちかも」
「今は手伝いをしてますが、あの会社に来いとも、僕の手が欲しいとも言われてません。ただ、僕があの会社のために、できることをしたいと思ったんです。今みたいに、手伝いじゃなくて……」
「そっか」
自分のわがままで会社をやめるのだから、咎められても仕方ない。そう思っていたのに、浜村は穏やかに返事をしてくれた。
「まぁ、どこにいっても、要が元気でいてくれれば俺はそれで構わないと思ってる」
「課長……」
「おまえが、部下から義理の弟になるだけのことだ」
浜村の表情はとても優しかった。要は、溢れそうになる涙を唇をかみしめてこらえた。
ここで泣いてはいけない。自分で決めたことなのだから、と言い聞かせながら。
「あー、なんだか寿退職する社員を見送ってるみたいだ」
「なんですか、それ!」
思わず吹き出してしまった。つられて浜村も笑う。笑いながら、この人が上司でよかったと、そう、しみじみ思った。
最初のコメントを投稿しよう!