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「予定が少し早まったけど、あんな狂犬みたいなやつと同じマンションに帰せるか」
「狂犬?和田は温和ないいやつですよ」
「温和?おまえのためなら、人も殺せるだろ、あいつ」
「う……」
殺しはしない、いや、まぁ、やりかねないと思ったことはあるので、要は押し黙った。
「いや、おまえの大事な友達だったな」
「……はい」
「あいつの分まで、大事にしなきゃいけないな、おまえのこと」
和田はいつだって自分の幸せを考えてくれる。結局、和田には助けられてばかりだ。
「純太郎さん」
「なんだ」
「俺、和田に助けられてばかりです」
「いいんじゃねーの?ダチってそういうもんだろ」
「そうなんですか?」
「おまえもあいつに何かあったら駆け付けてやれ」
友達なんていなかった。和田しかいなかった。けど純太郎の言葉はすんなりと心に染みる。
和田には今までしてもらったことを返していこう。そして、今の幸せは和田がくれたものだと、忘れないようにしよう。
「他の男にも近づくなよ」
「なんですか、急に」
「俺、おまえが思ってるより独占欲強いからな」
「はいはい」
「すっげー、嫉妬するし」
「めんどくさいですね」
「おまえと話してる若いやつら、後から仕事倍にしてたからな」
「は?いつの話をしてるんです?」
「おまえがパソコン教えに来てたとき」
(もしかして、そのときから僕のこと?)
「だから、おまえはあいつらのためにも俺だけ見てろ、いいな」
「今まで見てたじゃないですか」
「うるせーな。わかったか?」
「はいはい、もー!」
呆れながら純太郎を見れば、優しい顔で笑ってた。二人はその日、何十回目かのキスをした。
好きになった人に愛されるなんて夢のようだ。
時は満ちて、あの日咲くことができなかった花は、長い時間をかけて咲いた。
それはあの日よりも、大きくてきれいな大輪の花だった。
Fin
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