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「ちょっと純ちゃん、また今日も?」
「うるせーな、そういう気分になれないんだよ」
まるで診察台のような簡易的なベッドの上で、バスタオル姿のまま、森中純太郎は仰向けになっていた。女は、濡れ髪をタオルで拭きながら、いそいそと外していた下着を元のようにつけはじめる。
「ウチらは、お金もらってるからいいんだけど、なんか純ちゃんらしくないね?」
「……クソ」
手入れの行き届いていない板張りの天井を見つめながら、純太郎は呟いた。
今日は昔からの付き合いである同業者四人と、駅前のヘルスにやってきた。個室で男女がふたりきりとなればすることは一つ。そのために金を払って、時間を買う。風俗とはそういうものだ。
待合室で待っている間はバカ騒ぎしながら、甘い期待も抱いた。そして個室に入ってすぐ、徐々に頭が冷静になり気づけば、適当に無駄話をしてその時間を過ごしていることに気づいた。
自分の息子の名誉のために言っておくが、勃たないわけではない。女と一緒に風呂を入って、局部を丁寧に洗われればそうなるのは生理現象だ。そしていざ、女を前にしても目の前の女に触れたいと思わない。据え膳を食らう前に、すでに腹が満たされている、そんな気分だ。
実は先週も、夜遊びをしたいという取引先の社長をこの店に連れてきた。そのときも、勝手知ったるこの女をいつものように指名したのだが、何もせずにだらだらと時間を過ごして終わった。
相手に原因がないのはわかっている。今までも何度も指名しているし、何度もイイ事だってしている。外見も体も性格も申し分ないイイ女だ。
「ははーん?いい人でも出来たのね、純ちゃん」
「いねーよ、そんなの」
実際、女ができたときだって、風俗通いはやめなかった。女に散々罵られても、行くなと泣きつかれても、これは男の付き合いだ、と突っぱねてきた。行くなと言われれば行きたくなるもの。
けれど、どうぞと言われれば、行くのが馬鹿馬鹿らしくなるという気持ちを純太郎は最近知った。
『おい、要。これから駅前のヘルス行ってくる』
『いってらっしゃい』
『止めても行くぞ』
『止めてませんけど』
『俺は風俗は、やめないぞ』
『病気だけはもらってこないでくださいね。あとで苦しいのは純太郎さんですよ』
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