第一章

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息が荒くなる。 肩掛けの鞄を持つ手に力が入る。 真冬だというのにその掌にはうっすらと汗をかいていた。 角を曲がりアパートが見えたところで私は意を決して走り出した。 扉の前にたどりつき、鞄から鍵を取り出す。 「落ち着いて、落ち着いて」 心で唱えたつもりの言葉が音声として私の口から発せられた。 あせっていることは自分でも気が付いていた。 震えを制するように荒く扉をあけるとその中に滑り込み、鍵をかけた。 ややあってチェーンロックもかける。 なおも私の心臓は早鐘を打つ。
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