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「ギャアアアアアアっ!」
凄まじい悲鳴を上げて、ヤツは消え去った。目の前には真っ暗な空間が広がっている。少女は持っていた刀を降ろし、その場をあとにした。
「ご苦労ご苦労、桃よ」
少女の名前は金田桃。桃は座敷に鎮座する祖父・金田力(りき)の前に正座し、丁寧に頭を下げた。
「いえ、これも日頃の稽古のお陰。じいさまには感謝いたします」
金田家には代々受け継がれてきた不思議な刀がある。寂しい、悲しい、辛い、苦しい…人の負の感情から生まれ、その者の心に住まう“鬼”を退治する刀である。祖父・力、父・一、そして桃へと、今もその刀は伝わる。しかし父の一は、桃が11歳の時に鬼に殺された。
「はは、そう堅くなるな。一が早死にした分、桃にはできるだけ長く務めてもらわねばならない。戦の後くらい、リラックスせい」
しかし桃は顔を上げ、キッと力を睨んだ。
「いえ、だからこそ私はもっと強くならねばなりません。私は負けません。父のようには」
*****
木ノ本忠司は、4年3組の教室にある自身の机を漁っていた。算数の教科書がない。確かに昼間は持っていたはずなのに。
「誰かいるのか?」
忠司が振り返ると、担任の菅原がいた。菅原は校則に厳しい。しかし、探し物をしていたと言えば許される、と忠司は思っていた。
「教科書が見つからないんです。今日の宿題に必要な」
「あぁ?」
ジロリと菅原の目が忠司を見下ろす。忠司は肩をビクッと震わせた。
「んなもん、誰かに見せてもらえ。下校時間はとっくに過ぎている」
「……………」
忠司はしょんぼりとして教室を出ていった。菅原先生は校則しか頭にない。その事実を突きつけられて、驚くと共に宿題どうしよう、と混乱に陥っていた。
「とりあえず塾行くか…」
忠司には友達がいない。学校が終われば塾や習い事。友達と遊ぶことを断っているうち、いつしか誰からも誘われなくなった。たまに「おい、ガリ勉!」とからかう人もいる。憧れの女の子からは、「忠司くん、つまらない。いつも勉強ばかりだもん」と言われた。みんな、僕のことをどう思っているんだろう?つまらない奴かな。堅い奴かな。そう思ったら、人と上手に喋れなくなった。
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