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だんだん息が荒くなってきた。小刻みに震えるステアリングを握る手は汗ばんで今にも滑りそうでも、アクセルペダルを踏みつける右足は緩めようとしない。
ミラーに映る赤と青の回転灯。200km/hを超えても付いてくるダッヂのチャージャー。警察にこんなにも腕が立つドライバーが居たのだろうか。
道は緩やかに曲がっていく。ハイウェイに入れば突き放せると思っていたはずなのに、このツインターボ化した500馬力を誇る87年式ビューイック リーガル グランドナショナルに平然と追いついてくる。
早朝のハイウェイは一般車はおらず、走りやすいがそれは向こうも同じ事。カーチェイスのウサギ役には辛い状況だ。
前に出ようとするチャージャー。させまいと目の前に被せてやるが、あっさりと引いた。次の瞬間だった。
甲高いエキゾーストが真横を通り過ぎた。目の前にライムグリーンのカワサキH2が居たのだ。
しまった、と思った。乗ってるライダーはレディーススーツで真っ黒なフルフェイスのヘルメット。このカワサキはマズい。
ブレーキを踏みつけた。あわよくば出口に逃げ込める。しかし、それは適わなかった。
出口はチャージャーの5mものボディが塞いでいた。フルブレーキング。真横に当たる寸前で止まった瞬間、チャージャーに周りを囲まれた。
ジ・エンド。屈強そうな警官に囲まれ、ステアリングにうなだれる。H2がジャックナイフで向きを変えて真横に止まった。
H2に跨がっていた女がヘルメットを脱いで窓を叩いた。フルフェイスの下は長いブロンドの髪だった。
「ハロー。私に付き合ってくれないかしら? リオ・フェラーリさん」
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