ep.1 KoonCity

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「ああッ、クソッ」 目を覚ますなり、目の前の枕に拳を叩き込む。 イヤな夢を見た。昔の記憶を夢で見るのはこうも不快なものなのか。 Tシャツは汗で肌に貼り付いている。汗が気化してひんやりとした感覚が露出した腕に伝わる。 時計は朝の8時を3分過ぎていることを示していた。ベッドから降りてTシャツと下着を脱ぎ捨て、シャワールームに入った。狭い部屋なので、数歩で済む。 外からけたたましいエキゾーストがふたつ重なる。V8とV6ターボ。朝から元気なものだ。頭の上から熱いシャワーが降り注ぎ、ピンクブラウンの髪を濡らしていく。 鏡に映るのは、クッキリとした眼に茶色の瞳、スッと通った鼻筋。まるでPCモニターから出てきたような顔だった。 回りからはKAWAIIとよく言われていたが、彫りの浅いこの顔は好きになれなかった。 曇り始めた鏡に手を添えて下に滴を落とすように振り落とした。モデル並みとはいかないものの、体付きは少し自信がある方だ。 セミロングの髪をかきあげて熱々のシャワーを顔から浴びる。 ここは天国か地獄か。来て四ヶ月になるが、未だに分からない。 KoonCity(クーンシティ)。世界中から重度の交通犯罪者を集めたという街。 しかし、ハワイ諸島の中にあって元はリゾート地として開発された島で、クルマは自由に乗れるし、米ドルが使える。 街が存在して、買い物は出来るし、ストリートレースも自由。禁止されているのは主に殺しと盗み、そして破壊。平均200km/h近い鉄の塊が放つ爆音と脅威を不快に感じなければ、非常に過ごしやすい土地だ。 Prison Of Nitrous(プリズン・オブ・ナイトラス)。この島はそう呼ばれ、住民と呼ばれるのは皆、囚人である。 リオも半年前。米国アリゾナのハイウェイでストリートレースをしていた時に警察に追われ、カワサキH2に跨がった警察の女に捕まった。 リース・キャンベル。あのときの女の名と腰まで伸びたブロンドの髪は忘れない。
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