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ベイサイドで最もキツい左コーナーへ突っ込むF50とGen-F2。ブレーキング勝負はイン側のミッドシップで軽量なF50に分があるが、そんなのは関係ない。ここはサーキットではないから。
「馬なんざ跳ねても、獅子の餌でしか無いんだよ。失せな」
ブレーキタイミングは同時。重いGen-F2が前に出る。すぐに200km/hを下回る。
ABSを最大限に生かし、一瞬右に振ってから左に思いっきり振る。F50にアウトから被せ、ラインを潰してやった。
フルブレーキ。ハンドブレーキを併用して速度を殺す。避けようとしたF50はイン側の縁石にタイヤを引っかけてスピン。右フロントとガードレールが濃厚なキスを交わす。
ラジエーターか配管か、クーラントを垂れ流すF50に中指を立てながら、Gen-F2は止まった。タイヤから上がった白煙がボディを透き通るように抜けていく。
リオは中指をルーフの上へ突き立てた。F50のドライバーが事故車から這い出てくる。
「フェラーリ嫌いのあたしに喧嘩ふっかけた報いだ」
リオ・フェラーリ。大の付くフェラーリ嫌い。理由は、音だけが先行するクルマが名前に入っているだけで癪だから。フェラーリのV12は特に嫌いである。
派手にホイールスピンさせる。もう用事は無い。留まる義理も無い。別れの挨拶とばかりにアフターファイヤーが炸裂する。
「もっとイカレてクルマを乗り換えてから出直しな」
今日は気分が良い。昔、14の時に初めて白い粉を吸ったとき以上の快感だ。それも今や10年前の話である。
今更ヤクはいらない。スーパーチャージャーを回してガソリンを燃やしてやれば、快感が手に入るのだから。
そして、虚構のような牢獄の街で生きている意味を実感できるのだから。
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