少女と猛獣

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「いやぁぁぁぁ!!」  人一倍怖がりな恵理子(えりこ)は、甲高い叫び声を上げた。  … … …  そもそも、幽霊の出る屋敷に来ようと言い出したのは、親友の美貴(みき)だった。  それだと言うのに、実際現場に来てみれば張本人の彼女は急きょドタキャン。その代わりに来ていたのは、恵理子が密かに思いを寄せる友介(ゆうすけ)先輩だった。  幼い頃から、美貴は勝手なことをすることが多かったが、今回はよりによって、大好きな友介先輩と二人で幽霊屋敷訪問とは。しかし、美貴の考えも分からないことも無かった。  何故なら、この友介先輩は三度の飯よりオカルト好きと言っても過言ではない、オカルトマニアであったからだ。正確に言えば、オカルトや、ミステリーなど、謎めいたことがとてつもなく好きな青年なのだが、美貴は恐らく彼のそんな部分を利用し、今回恵理子と友介の距離を少しでも縮めようとこんな無茶なことをしでかしてくれたのだろう。幽霊嫌いの恵理子としては有難迷惑な話である。  帰ろうとそれとなく伝えたが、オカルト好きな彼の耳にはそれも聞こえて来ず。さりげなく恵理子の手を握ると、嬉々として建物の中へと入って行った。  … … …  暗く、かび臭く、蜘蛛の巣も幾つか張っている。手入れがされていないのが、誰から見ても分かる。この暗さを、二人分のライトだけで照らして進んでいく。 「恵理子ちゃん、此処の幽霊のこととか詳しく知ってるの?」  友介先輩からの問いだった。幽霊嫌いの恵理子は、幽霊そのものの話題を避けて通って来たきたのでさっぱりであったが、中に入ってしまった以上は聞いた方が良いのかもしれない。首を振り、返事をする。 「友介先輩、知ってるんですか?」  恵理子が尋ねると、友介先輩はコクコクと頷いた。 「此処はね、以前獣のうめき声がするので有名だったんだよ。なんでも、この屋敷の大金持ちがライオンを飼っていたらしいんだ。もともと大人しい子だったらしくて、ライオンはずっと穏やかに過ごしていた。だけどある日、ライオンが飼い主を引っ掻いてね。それに怒った飼い主が、召使いにライオンを殺させてしまったんだよ」 「うわぁ、ひどい……そこまでしなくても」  今まで恐怖ばかりを感じていた恵理子だが、友介先輩の話を聞いてライオンを不憫に感じるようになった。
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