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「全くだね。……それからと言うものの、屋敷には何度か人が移り住んだけど、皆早いうちに出て行くようになった。獣のうめき声と、少女の泣き声がするからね」
「少女の泣き声って言うのは?」
「うーん……此処を移り住んだ人の子が亡くなったって情報は無いけど……此処、意外と霊のたまり場だったりして」
「じょ、冗談よしてよぉ」
涙目になりながら首を振る恵理子。これには友介先輩も、「ごめんごめん」と苦笑いした。
――ガタッ
二人の距離が近づきかけていた時、誰もいないはずの遠くの部屋から不穏な物音がした。
「いやぁぁぁぁ!!」
人一倍怖がりな恵理子(えりこ)は、甲高い叫び声を上げた。
「何だろ。怖いんだよね。ちょっと此処で待ってて」
「あっ! ちょ!!」
友介先輩は物音に反応すると、即座に恵理子の手を離して音の方へと駆けだした。一人の方が怖いんですけど。と、恵理子が言う間もなく。
一人取り残され、身を包むのは鳥肌だけとなってしまった。此処で一人で待てと言われても、此処でじっとしていて仮に何か起こってしまえば。身震いが止まらない。
そんな恵理子の耳に、物音とは別の音が聞こえて来た。否、これは音と言うより声と言うべきか。怖く思いながらも、恵理子は耳に意識を集中させた。
「……だれかぁ、だれかぁ」
誰かを探し求める、少女の涙声がした。
「……もしかして、友介先輩の言ってた……」
だとしたら、危ない幽霊かもしれない。そう頭をよぎったが、どうしても少女の声に危険は感じられず、それどころか、行ってあげなくてはならない。そんな思考にとらわれてしまった。気づけば恵理子は、その声のする方へと移動していた。
… … …
声のする部屋の扉の前。緊張から、恵理子は胸に手を当てながらドアノブを捻った。
扉を開けたその先には、青白く光る、足の無い少女の幽霊が一人浮かんでいた。少女は、俯きながら両手で涙を拭っている。これを見た恵理子は、怖がることなく彼女に近づいていく。
「何かあったの?」
すると少女は一つ頷き、俯かせていた顔を恵理子へと向けた。
「ねぇ、おねえちゃんは、ミサの前からいなくなったりしない?」
「え……?」
恵理子が答えに困っていると、ミサと名乗る少女の幽霊はまた泣きだしてしまった。
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