少女と猛獣

3/6
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「全くだね。……それからと言うものの、屋敷には何度か人が移り住んだけど、皆早いうちに出て行くようになった。獣のうめき声と、少女の泣き声がするからね」 「少女の泣き声って言うのは?」 「うーん……此処を移り住んだ人の子が亡くなったって情報は無いけど……此処、意外と霊のたまり場だったりして」 「じょ、冗談よしてよぉ」  涙目になりながら首を振る恵理子。これには友介先輩も、「ごめんごめん」と苦笑いした。 ――ガタッ  二人の距離が近づきかけていた時、誰もいないはずの遠くの部屋から不穏な物音がした。 「いやぁぁぁぁ!!」  人一倍怖がりな恵理子(えりこ)は、甲高い叫び声を上げた。 「何だろ。怖いんだよね。ちょっと此処で待ってて」 「あっ! ちょ!!」  友介先輩は物音に反応すると、即座に恵理子の手を離して音の方へと駆けだした。一人の方が怖いんですけど。と、恵理子が言う間もなく。  一人取り残され、身を包むのは鳥肌だけとなってしまった。此処で一人で待てと言われても、此処でじっとしていて仮に何か起こってしまえば。身震いが止まらない。  そんな恵理子の耳に、物音とは別の音が聞こえて来た。否、これは音と言うより声と言うべきか。怖く思いながらも、恵理子は耳に意識を集中させた。 「……だれかぁ、だれかぁ」  誰かを探し求める、少女の涙声がした。 「……もしかして、友介先輩の言ってた……」  だとしたら、危ない幽霊かもしれない。そう頭をよぎったが、どうしても少女の声に危険は感じられず、それどころか、行ってあげなくてはならない。そんな思考にとらわれてしまった。気づけば恵理子は、その声のする方へと移動していた。  … … …  声のする部屋の扉の前。緊張から、恵理子は胸に手を当てながらドアノブを捻った。  扉を開けたその先には、青白く光る、足の無い少女の幽霊が一人浮かんでいた。少女は、俯きながら両手で涙を拭っている。これを見た恵理子は、怖がることなく彼女に近づいていく。 「何かあったの?」  すると少女は一つ頷き、俯かせていた顔を恵理子へと向けた。 「ねぇ、おねえちゃんは、ミサの前からいなくなったりしない?」 「え……?」  恵理子が答えに困っていると、ミサと名乗る少女の幽霊はまた泣きだしてしまった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!