一章 生物兵器監査連邦

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通信器具が唸る。 葉月は通信器具をポケットから取り出した。 指令本部からである。 状況の説明をすると総司令官の声がした。 「部隊を既に手配している。生存者確認と平本博士を探してもらいたい。君たちはワクチンが効いているから問題はない。虫の名前と形状、状況のすべてを報告すること。部隊がつき次第調査を譲渡すること。良いね?」 「了解しました。安全性が全く認められないので破壊するだけ破壊を試みます。気体飛散の影響はないでしょう。特区はゾンビの町ですから。ゾンビにゾンビ用の生物兵器は使えません」 「君たちも気を抜くなよ。報告を待っている」 通信が切れた。 「指令部はここのこと知らねえからそう言えるんだよな」 舌打ちをして葉月は通信器具をしまった。 事態を軽んじている組織が、世間の均衡を保つ為に働いていると言うのだから恐ろしい。 葉月は部屋を漁る。 ミサはまだ放心しているのか本調子ではないようだった。しかしそれも無理もないことだ。恋人が亡くなり、信じていた里親が死んだのだ。簡単に切り替えはできないだろう。 葉月は用心深く、部屋を歩き回る。研究室には実験材料の残骸が転がっていた。ピンセットでケースに採取する。地上で見た虫が焦げて引っくり返っている。
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