二章 調査

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それがママとの出会いだった。 店には持ち寄った酒瓶が並ぶ。物資すらまともに手に入らない地域に「幻」はある。客は酒を売りに来る。ママは安値で買い取り、または酒を飲む場所として店を貸し出して生活している。酒好きが日本に多いためか酒を手に店を訪れる客は絶えない。ママとしてはいい商売なのだと言う。 「今日はなんの気分?」 年齢すら誤魔化すようにその美声は色を放つ。 「ウイスキー」 葉月は上着を脱いで、カウンターを陣取った。 「残念。昨日、全部無くなっているわ」 ママは棚を示した。 カウンターの向こうの棚には瓶が並んでいる。ただラベルと中身が違うのだ。葉月にはどれがどの酒かわからなかった。 「昨日、客足良かったの?」 「妙に羽振りがいい客でさ。頬に傷がある男だったよ。なんか薬指のない青年をお供に酒を左から順番に呑んでいった。驚くよね」 「奇妙な客だな。そいつは」 「なに言ってるの。軍事関係なら珍しくないことでしょうに」 「いくら軍事関係でもそこまで傷を見せびらかす必要がないだろうに」 「いまの子は、顔の傷を勲章とは言わないのね」 「その由縁と言うやつを聞けばそれなりに関心はするんだが、今はその由縁もない奴らが結構いるんだよ」
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