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「考えてみればそうかもね。行きなり襲われて負傷する方が圧倒的に多いご時世だからね」
「それで、その二人が残さず呑みきったのか?」
「ウイスキーはね。ウオッカなら一口残ってるけれど」
「ウオッカ? 久し振りにそれにするよ」
葉月は断念した。ママが透明の液体をグラスに注いで葉月の前に置いた。氷などと言うものは用意されていない。
「車で来たんでしょう?」
ママは意地悪く聞いた。
当然ながら無法地帯に交通規制も法律もなかった。それだけ世界は麻痺している。あるのは自分の国が儲かるための都合のいい法律だけだった。いまや月や火星の方が治安がいいのではと言われる世界になっている。葉月は疲れたように笑った。
「警察も政府も軍人もそんな小さな犯罪者に目を向けている島はない」
「せちがない世の中ね」
「なんでもいいよ。無法地帯になってかなりたつ。もうどうにもならない。救世主なんて居ないんだから」
「特区のことも投げてるでしょう。民間人は既に限界よ」
ママは自分のグラスに酒を注ぐ。
「ちゃっかりしてるね」
「これは店の分。大昔とは違うからね。それより反乱軍のひとりが特区の平面図を持ち出したと言う話は聞いてるかしら」
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