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屋敷の一室に集めた人々を前にして隼人は眉を潜めた。平本泰の家である。ここは広間だった。
飼い猫のモカが隼人の膝の上であくびをする。
隼人は屋敷の居候たちに視線を向けた。彼等は思い思いに床に座り、机に腰掛け、ソフアに寝そべる。彼等の皮膚は爛れ、目玉が片方取れかけていた。他にも身体の一部が腐敗する。彼等は生物兵器により疾病を患った者たちだった。
二日前の夜。屋敷の主である平本の研究場所として使われていた部屋で爆発が起きた。研究室から生物兵器が屋敷に逃げ出したのである。その逃げ出した生物兵器によって屋敷の住人たちはゾンビとなってしまった。
四人のゾンビは向かい合う。
部屋は崩壊していた。
意識は混濁し、自身の行動に自覚がもてなくなっていた。
意識を繋ぎ止めようとして隼人はモカの背を撫でる。この局面いおいてまともな生き物は猫であるモカだけだ。
皆既に死んでるのとかわりない。
感情すらどこか間違っている。
発せられる言葉のひとつひとつが音は軽い。
人を殺めてなお彼等はそこに集う。
「話を整理しようと思うんだ」
隼人は薄れ行意識をどうにか止めようと言葉を紡いだ。
隼人の足は徐々に腐敗して最早たつことすらできない。
広間に逃げ込んだは良かったもののそこまでで、もう外にでることはできなかった。
部屋の外には奇妙な生き物が飛んでいる。
平本が作り出した虫である。
虫が吐き出した液体や虫を潰したときに飛散する気体に触れた箇所から腐食されていくのだ。
友人が腐敗する姿を見ることも自分が腐れていくことも耐えられるものではない。
痛みがないこと、感覚が麻痺していくことが救いと言うから床に散らばった人間の残骸など塵屑にしか見えなくなってくる。
隼人は目を閉じることさえ許されない。
「なあ、隼人は犯人を知っているんだろう」
腐れかけた舌で友人の佑真は言った。
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